日本動物学会, 第71回大会 (2000), 東京大学

アロザイムを用いた行動多型の遺伝的背景の解析:モンシロチョウの例

廣田 忠雄1・板倉 満枝2・小原 嘉明2

1国際基督教大学・理学科・生物, 2東京農工大・獣医学科・動物行動学

概要:モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora)のオスのメス探し行動時間には大きな個体差があることが分かっている。この個体差が生じる遺伝的背景を調査するため、糖代謝に関わる酵素との関係を解析した。その結果、PGM(ホスホグルコムターゼ)には対立遺伝子a・b・c・dが存在し、cを持つ個体は有意に飛翔時間が長かった。また、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)には対立遺伝子a・b・cが存在しaを持つ個体の飛翔時間は有意に短かった。
 さらに、飛翔能力の低い個体が存在する理由を明らかにするため、野外個体群から様々な時期にサンプルを採集し、季節による個体群の遺伝子頻度の推移を調査した。その結果 、 PGM・G6PD・ME(リンゴ酸酵素)・ICDH(イソクエン酸脱水素酵素)・α-GPDH(α-グリセロール-3-リン酸脱水素酵素)いずれにおいても季節変動は見られず、ある特定の遺伝子型が季節によって有利になることはないことが示唆された。しかし、 PGM・G6PD・ICDHの遺伝子型頻度はハーディー・ワインベルグ平衡から有意にずれており、個体群内でランダム交配が行われていない可能性、または成虫になるまでの発育の過程で生存についての淘汰が働いている可能性があることが示唆された。

キーワード:昆虫, 鱗翅目, 蝶, シロチョウ科, 繁殖行動, 交尾行動, 行動生理, 進化, 生態

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