日本生態学会, 第47回大会 (2000), 広島大学

動きやすいから飛んでいるのか、見つけやすいから探しているのか?

廣田 忠雄・板倉 満枝・小原 嘉明

東京農工大・獣医学科・動物行動学

概要:
 モンシロチョウでは、成虫オスが毎日メスを求めて探索行動を行うのに対し、メスは交尾後産卵に専念して交尾を拒否するため、実効性比が著しくオスに偏っている。よって本種のオス間には激しい競争が生じていると思われる。このような競争の結果、オスの行動は資源であるメスの分布に対して理想自由分布に平衡していると予想される。しかしオスの1日のメス探しスケジュールは、メスが羽化し交尾可能になる早朝(4-5時)にはあまり見られず、9-11時ぐらいに最も頻繁に観察された。Iwasa & Obara (1989)は、オスが早朝に探索を行わない理由を、早朝にはオスはメスを効率的に発見できないと理論的に予測した。その至近要因としては、@気象条件による飛翔行動の制限、A紫外線環境の雌雄識別能力への影響、Bメスの羽化後の行動の発見効率への影響が挙げられる。しかし、どの要因が主要な役割を果たしているのか検証されてはいなかった。今回は、気象条件とメスの羽化後の行動に注目して、オスの探雌スケジュールへの影響を検証した。

@ 気象条件の影響
・早朝、気温・照度が低い時には、オスは日光浴行動を盛んに行い、気温・照度が上昇するにつれて探雌行動が見られようになった。
・1日における探雌オス数の経時的変化も、気温と日照で有意に回帰できた。

A メスの羽化後の行動
・メスは食草の葉の裏側で羽化し、1時間以上その場に留まっているが、平均2.46(±0.68)時間後に初めて飛翔し、葉の表側に移動することが分かった。この際、羽化から飛翔までの時間は、周辺の温度が高いほど短縮された。
・また、メスの標本を葉の表裏に設置してオスに提示すると、葉の上の標本が有意により頻繁に、早く定位・接近されていた。つまり、羽化後葉の裏に留まっているメスは発見しにくいが、メスが葉の上に移動した途端に著しく発見しやすくなると思われる。
・その結果、発見しやすいメスは9-10時ごろに豊富になることになる。事実、気象条件とメスの羽化時刻の実測値から推定した見つけやすいメス数は、観測された探雌オス数の変化と有意に相関していた。

B 飛べないのか、飛ばないのか?
 オスの行動スケジュールがは、気象条件によって制限されているのか、得易いメス数に対して能動的に調節されているのか、回帰分析を行った。結果、メスの羽化後の行動の影響が最も強いことが分かった。

キーワード:昆虫, 鱗翅目, 蝶, シロチョウ科, 交尾行動, 繁殖行動, 体温調節, 進化, 生態

[BACK]