日本生態学会, 第50回大会 (2003), つくば国際会議場
国際基督教大学・理学科・生物
概要:多くの分類群で性特異的な分散が観察されている(Greenwood & Harvey, Dobson 1982)。性特異的な分散の進化過程は、複数のモデルで考察されてきた(Gandon 1999, Perrin & Mazalov 2000)。この際、分散者は分散後に交尾すると仮定されてきた。分散の効用として近親交配の回避を重視する場合、この仮定は妥当である。しかしこれらのモデルは、分散前に交尾する種に対しては必ずしも適用できない。そこで本報では、分散前に交尾する種の生態データをもとにシミュレーションを行い、分散前交尾が性特異的な分散の進化に与える影響を考察した。
対象には、メスが分散前に交尾して数km分散するのに対し、オスは誕生した生息地付近に留まり殆ど分散しないことが、複数の地域個体群で観察されている、モンシロチョウを用いた(Ohsaki 1980, 鈴木 1980, Yamamoto 1981, 1983)。分散前後の投資量が雌雄独立の遺伝子座によって決定されており、格子状に配置された16の生息地を、生涯一回ランダムな方向に分散すると仮定した。
シミュレーションの結果、変動環境で、メスが分散前に交尾し、局所個体群の平均サイズが大きく、分散に伴う死亡率が小さいほど、現実に近い分散形態が進化した。安定環境や、メスが分散後に交尾する場合には、分散率は雌雄で変わらなかった。このように、モンシロチョウのメス特異的な分散の進化には、メスの分散前交尾と変動環境が大きく影響していると思われる。近縁種と比較から、モンシロチョウはr戦略者と推定されているので(Ohsaki 1982)、分散の進化過程で変動環境にも晒されていたと考えられる。
キーワード:分散, 昆虫, 鱗翅目, シロチョウ科, 進化, 生態