日本応用動物昆虫学会, 第46回大会 (2002), 東京農業大学
国際基督教大学・理学科・生物
概要:雑多な植物が存在する環境で、植食性昆虫が寄主植物に到達するためには、様々な感覚情報が活用される。特に遠方から寄主を定位し、効率的に訪問するためには、臭覚刺激とならび、視覚の果たす役割が大きい。植食性昆虫が植物器官の色や形態を認識・学習することは、繰り返し報告されてきた。特に形態の認識機構については、膜翅目の採餌行動を対象に詳細な研究がなされてきた。一方で、産卵行動における形態の認識の役割はあまり注目されてこなかった。鱗翅目昆虫でも、産卵メスが葉の形態に選好性を示すことや、条件付けされることは、野外観察を通じて報告されてはいる。しかし、様々な条件をコントロールした実験条件下で、産卵メスの形態認識を吟味した研究は少ない。そこで我々は、複葉を持つ植物(メドハギ・ネム)を寄主植物とするキチョウ(Eurema hecabe)を対象に、産卵メスの形態認識を実験的に調査した。メドハギの抽出液を塗布した色紙で植物モデルを作成し、30x30x30 cmのケージ内で産卵メスに提示し、訪問頻度や産卵数を測定した。その結果、産卵メスは葉の面積によらず、輪郭の長いモデルをより頻繁に訪問することが示唆された。葉が複葉の寄主植物に定位するキチョウは、輪郭の長い図形に選好性を持つことで適切な寄主に舞い降りる効率を上げていると考えられる。
キーワード:昆虫 ,鱗翅目, 蝶, シロチョウ科, 産卵行動, 繁殖行動, 進化, 生態