鱗翅目において性比が雌に偏っている個体群の報告は比較的古くからあり,その至近的要因や究極的要因について多くの議論がなされている (Cockayne 1938, Hurst 1993他)。近年,バクテリアの遺伝マーカーを利用することによりバクテリアの検出が容易にできるようになってきた。そのため,昆虫を含む多くの節足動物においてバクテリアが宿主の性を操作していることが明らかとなっている (Stouthamer et al. 1999, Hurst & Jiggins 2000)。鱗翅目においてもバクテリアによる「遺伝的な雄の雌化」や「雄殺し」という操作により,性比異常が引き起こされることがかなり報告されてきた (Kageyama et al. 1998, Jiggins et al. 1998他)。そのような雌に異常に偏る性比をとる個体群は絶滅する可能性がある。なぜなら鱗翅目ではほとんどの種が次世代を残すためには雄との交尾を必要とするためである。しかしながら細胞質遺伝するバクテリアにとっては,宿主を雌に偏らせることが適応的となる。このため鱗翅目とバクテリアの間には複雑な関係が生じている。そこで本講演では,鱗翅目における性比異常とバクテリアとの関係について現在までの知見を紹介し,性比異常が維持される条件について考えてみる。
講演者の最近の活動 <講演者のホームページ>
- Tagami Y, Miura K. (2000) Detection of Wolbachia from the Cabbage White Butterfly. First Int. Wolbachia Conf. Programs and Abstract, 98.
- Tagami Y, Miura K.,Stouthamer R (in press) How Does Infection with Parthenogenesis-Inducing Wolbachia Reduce the Fitness of Trichogramma?
- Hiroki M, Kato Y, Kamito T, Miura K (in press) Feminization of genetic males by a symbiotic bacterium in a butterfly, Eurema hecabe (Lepidoptera: Pieridae)
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